自由人たるエンジニアはアジャイル旅行へ出よ #3

「アジャイル旅行」という単語を知っているだろうか?

ほとんどの人にとっては初見の単語と思われるが無理もない。
なぜならついさっき思いついたばかりの新単語だからだ。

このスキー写真は先日僕が「アジャイル旅行」でスキーに行ってきた時に撮影してきた写真だ。
「アジャイル旅行」だったからこそ、素晴らしいスキー体験をすることが可能になった。

それでは、「アジャイル旅行」とはなにか、それはこの記事を見て頂ければご理解いただける。

■「アジャイル旅行」とは?

「アジャイル旅行」とは、いつも僕が実践している、そして他にも多くの隠れた愛好者がいると思われる新しい旅行のスタイルである。

「アジャイル」とは、ソフトウェア業界でよく使われる用語で、簡単に説明してしまうなら、「事前に精緻な計画は立てず、途中途中の状況に適応しながら柔軟に開発するスタイル」のようなことを指す。(wikipediaの解説はこちら)

「アジャイル旅行」はこの思想に影響を受けて、事前に精緻な計画は立てず、柔軟に計画を変更しながら進行する旅行スタイルのことである。事前に大まかな行き先や体験したいことは企画するが、詳しい計画は旅行の中でリアルタイムに変更しながら、その場その場に合わせてベストな旅行を創り上げていくことで、旅行の満足度を最大化することを目的としている。

■なぜアジャイル旅行がいいのか?

皆さんはこんな経験は無いだろうか?

  • スケジュールが小刻みで詳細に決まっていて仕事みたいで楽しめなかった
  • 外で遊ぶタイプのレジャーに行ったが天候不良や体調不良で楽しめなかった
  • トラブル等で予定が狂い、無駄に2時間潰れた。
  • 予定が狂うことを恐れるあまり多くの行き先を計画に入れられない
  • 現地で凄く気になる謎の遊園地を見つけたが、当初の計画にないのでいけない
  • アクティブな計画を立てたが当日はまったりしたい気分。でも予定変更不可
  • 事情が変わって行きたくないのにキャンセル代がもったいないので嫌々行く

このようなトラブルを避けるためにアジャイル旅行は有効である。その旅行の体験を最高のものにするためには、当日の気分、気候、体調、そして初めて着いた現地の特徴、現地で見つけたスポットなど、当日でないとわからない情報を考慮して、最初に立てた大まかな企画をリアルタイムかつ柔軟に修正していくことが求められる。

自由な生き方を志すエンジニアであれば、不確定要素がある段階での保守的な計画に縛られず、旅行の過程においても計画を柔軟にコントロールしながら最適な旅行をプログラミングすべきである。技術の進歩で、ライフスタイルが革新される中、旅行のスタイルも革新されてしかるべきで、「かなり前に計画を立てて、当日はその通りに行動するだけ」というこれまでのスタイルも見直していくべきでは無いだろうか?

ちなみに、ソフトウェアの世界では、”YAGNI”という言葉がある。
“You ain’t gonna need it”の頭文字を取ったもので、「それ、必要ないかも知れないよ」という意味で、将来的に必要になるかどうかわからない時点では、いろんな心配をして事前に準備しても多くが無駄になるかもしれないので、今は何もしないでおいて、必要になった時に考えようよ。という趣旨である。その時になにをすべきかは、その時になってみてから考えたほうが多くの場合は合理的なのである。

■実際にアジャイル旅行を体験してみよう

百聞は一見にしかず。百見は一験にしかず。 (by松下幸之助)

最近僕が体験したアジャイル旅行を時系列で細かくまとめてみた。
どのように旅行を始め、どのように進行しているのかを追体験してみよう。
これは今年の1月に僕が一人でスキーに行った時のアジャイル旅行の記録である。

8:00

起床。今日は1日休暇の土曜日。さて何をしようかな。
体はそこまで疲労感がない状態。明日は夕方まで予定なし。
最近忙しくてジョギングが出来てなかったし体を動かしたいな。
冬も本番になったし、今年まだ行ってなかったスキーにでも行くか!
悪天候のスキー場は寒くて景色も悪いので避けたい。
→PCで調べてみる。全国的に天気が悪いが、、岩手付近だけ晴れてる!
またそもそも関東近辺は週末は大混雑なので避けたい。
→岩手に安比高原っていうのがあるらしい。空いててコースも充実でオススメらしい!
9:40に家を出れば14:00にスキー場につけるらしい。
時間的には遅めだけど物足りなければ宿泊するのもアリかな。
9:40の出発を待ちつつ、現地情報の調査。また一応長野付近の空いてるスキー場なども調査

9:40

手ぶらで家を出発。東京駅へ向かう
#本当にちゃんとスキーができるかワクワクしながら向かう

10:10

東京駅に到着。盛岡行きのチケットを購入
#この時点で新幹線に乗り遅れたりチケット売切れだったら長野でも行くか
#帰りはどうなるかわからないので往復チケットは買わない

10:20

盛岡行きの新幹線に乗車。乗車率は90%程度。
スマホにて、安比の歴史や楽しみ方、割引情報、帰る交通手段等を調査。
空き時間でこのブログ記事を下書きしたりメールチェックなど仕事をする。
そして空いているスペースでストレッチをしてたらあっという間に盛岡到着

12:33

快晴の盛岡に到着!
安比高原までのバスの往復チケット+リフト券のセット+レンタル1000円引きを購入

12:45

すぐにバスが出発、ガラガラで乗車率は20%程度。
ブログを書いたり、考えごとをして景色を愉しんでるとあっという間に1時間経過
#この時点でバス乗り遅れたりチケット売切れだったら他のスキー場を探すか盛岡市内観光に変更

13:33

快晴の安比高原スキー場へ到着!景色が最高!
遅めの時間帯なのでレンタルなど行列も無くスムーズに通過

14:00

予定通りスキー開始、かなり空いている!リフトも並ばずok
雪質は晴れが続いたためかざらつき気味ではあるが十分楽しめるレベル。
スキーを楽しむ。

16:00

ゴンドラが営業終了。ナイター営業に。
生き残こったリフトが一次的に行列になったので遅めのランチ休憩することに。
#ちなみにリフトが行列だったりしても、一人なのですぐに乗れたりもする

16:30

スキー再開。遅い時間なのでゲレンデはかなり空いている。リフトの待ちもなし。

17:50

足が重くなってきたところでスキー終了。
全コースは制覇できずちょっと物足りないくらいだがそれぐらいで丁度いい。
レンタルの返却等手続き。待ち時間なくスムーズに。

18:00

スキー場についている温泉に浸かって最高!

18:40

畳の上でビールを飲みながら畳の上でまったり。

19:04

シャトルバスで安比高原駅へ出発
#盛岡駅までのバスの往復チケットを買ってあったが、
バスだと終バスが17時までしかなかったので帰りは電車に切り替えた
駅までのバスに乗ってるは自分1人だけ。貸切状態。

19:22

暗闇の安比高原駅に到着。無人状態で客は自分一人だけ。
#この時点で電車に乗り遅れたら当日予約可能な5000円の現地ペンションに宿泊する(調査済)
#宿泊の場合、着替えを持ってきて無いので必要に応じて購入

19:38

盛岡行きの電車に無事乗車、ほぼ貸切状態。足を伸ばしてゆったり過ごす。
スマホでブログを書いたり岩手の名産を調査していたらあっという間に盛岡到着

20:38

盛岡駅に到着。帰りの新幹線チケットを購入。夕食用の岩手の名産物とお酒を買い込む
#この時点で新幹線に乗り遅れたら盛岡市内のホテルに宿泊、盛岡観光後に新幹線で帰る。
#この時のテンションと翌日の予定次第ではもう1泊する可能性もあり

20:50

盛岡駅を出発 乗車率10% ガラガラ状態
夕食を楽しみつつ、スマホのKindleで読書をしたらあっというまに東京着。

23:04

東京駅着。遠い世界から戻ってきたような感覚。
心地よい疲労感。バスツアーの帰りのようなぐったり感は無し。

23:30

帰宅。幸福感に包まれながら就寝。

 

以上が当日の記録である。
全くのノープランで当日に旅行に出たのにも関わらず、スムーズに旅行を楽しめ、高い満足感を得ることが出来た。

■いくつかの重要なポイント

・どこで何をするかも当日に決める

今回の場合、事前に決まっていたことは「休暇を楽しむ」ということだけである。どこで何をするのかは、当日の天候や体調や気分などに配慮して決めた。これが海外旅行などだと、航空チケットだけは事前に購入し、行ってからのことは当日以降に考えるという流れになる。

・事前にはわからないことがあった

事前に無駄のない計画を立てることもできるが、満足度を上げるための下記のような前提条件は当日でなければわからなかった
・当日の天候
・当日の体調
・当日の気分(遠くにでかけスポーツをしたい気分か)
・現地の規模感(楽しみ方や移動方法など見ないとわからない面があった)
・スキー場の空き状況
・スキー中の疲れ具合(辞める時間も疲れ具合で変動)
・日帰りしたいか(日帰りでも満足だったので日帰りにした)

・当日の情報収集が命

当日の出発前や移動中などに集中してスマホで様々な情報収集を行った。
交通手段や楽しみ方、周辺スポットや注意点など、当日なのでリアルな関心での調査になり調査結果も頭の中に行きたママなので、リアルタイムの複雑な判断がしやすい。

・無駄な時間がほぼ無い

電車や行列を待っているような無駄な時間が無かった。(あっても20分以内)
これは当日の調査で最適な交通手段を調べ、無駄なくスケジューリングしたため。
事前の計画だと到着時間など保守的に見積がちだが、間に合わなければ他のことしようという割り切りがあれば、ギリギリで行動することができるようになるし、まあ大体ギリギリで間に合う。

・割りと空いている

アジャイル旅行での行動パターンはトリッキーになりがちなので、結果的に人が少ない場所や時間帯を選択していることになり、待ち時間が発生しにくい。またあまりにも長い行列を見たら、その時点で予定を切り替えることもある。

・バックアッププランを用意

ギリギリで行動できる心理として、バックアッププランのイメージが持てていることが重要である。もし遅れて予定が狂ったとしても、他のプランに切り替えて楽しむ自信があればぎりぎり行動でOKとなる。また、「まあ遅れてもなんとかなるでしょ」という楽観的スタンスがなにより重要である。

・少人数で行動

事前に慎重に見通しを立てておきたいタイプの人は多い。そういう人とアジャイル旅行をすると心配で楽しめないという意見も聞いたりする(そう言いつつ実は楽しんでる気もするが・・・)。なるべく1人で行動するか、2,3名の同じ考えを持った人と行動したい。

・スリルも楽しい

アジャイル旅行自体が知力と体力と資金を投じてスリルを味わう知的冒険ゲームと捉えてみよう。実際にギリギリで行動したりトラブルに遭遇したりしながらもスムーズな旅行を体現できた時は大いに達成感を感じる。失敗しても誰に迷惑がかかるわけではない。アジャイル旅行はそれ自体がゲームだ。

■コスト対効果について

アジャイル旅行はツアー旅行より少しお金がかかるのは事実である。
今回のスキー旅行も「贅沢にお金を使って満足度を上げているだけ」という批判も想定されるので、ここではコストについて整理しておく。

・今回かかった料金は下記の通り。

東京×盛岡の新幹線往復 14,700円✖︎2
盛岡駅から往復バスとリフト券 5,500円
レンタル1式 3,400円
安比高原駅から盛岡駅の電車 1,150円
飲食等雑費3,000円

42,450円
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コストを考えるにはアジャイル旅行と格安バスツアーと比較するべきだが、
岩手県の安比高原の場合、そもそも遠くて東京からの日帰りのツアーが無いため比較が困難である。(だからこそ土日でも空いているのだ)

そこで、もし新潟県の苗場に行った場合のツアー旅行とアジャイル旅行で比較をしてみた

▼格安バスツアーの場合

<日程>
6:00 自宅を出発
6:30 新宿に集合・バス出発
10:30 苗場着、スキー開始
17:30 スキー終了。帰りのバス出発
21:00 新宿で解散

<コスト>
ツアー料金 12,000円
飲食等雑費 3,000円

15,000円
—————

#キャンセル料は当日50% 前日40%

▼アジャイル旅行の場合

<日程>
8:40 自宅を出発
9:20 東京駅から越後湯沢へ新幹線
11:08 越後湯沢到着
11:30 越後湯沢から苗場へのバス
12:09 苗場到着 スキーやランチや温泉
17:05 苗場出発 越後湯沢へのバス
17:48 越後湯沢到着
18:00 現地の居酒屋等で名産を味わう
19:00 越後湯沢から東京への新幹線
20:12 東京着
21:00 自宅着

<コスト>
新幹線で越後湯沢の往復 12,300円
越後湯沢から苗場のバス往復 1,320円
リフト5時間券 4,500円
レンタルセット 5,000円
飲食等雑費 3,000円

26,120円
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#そもそも苗場はかなり混んでいるので長野のどこか空いてるスキー場を探すはずだが、単純に金額を比較するため苗場で比較
#ちなみに5日前までに新幹線とスキーのパックツアーを申し込むと上記から5000円程度割引で同じ体験ができるが、5日前予約ではアジャイルではないので検討せず
#アジャイル旅行=新幹線ではない、行き先や旅行によって今回の最適な移動手段が新幹線だっただけ。マイカーの場合、一人なら新幹線と同程度のコストになる。4人でマイカーの場合は、バスツアーと同額程度まで圧縮されるが、人数が多いため、アジャイル旅行では無くなってしまう可能性が高い。

格安ツアーとアジャイル旅行の比較

格安バスツアーでスキー 15,000円
アジャイル旅行でスキー 26,120円
アジャイル旅行は約1万円、74%のコストアップである。

#格安バスツアーはかなり安いので、普段の体感的にはアジャイル方式によるコストアップは50%以内には収まる印象ではある
#本来は新幹線の5日前までの5000円割引パックと比較するべきかもしれない。その場合アジャイル旅行は23%のアップになる

まとめると、日帰りスキーの場合、アジャイル旅行は約1万円のコストアップとなる。
論点はその1万円の対価として得られる下記のようなメリットが、妥当かどうかである。

  • 当日の数ある選択肢の中で選べる気軽さ
  • 早起き不要、新幹線でらくらく移動の気楽さ
  • 天候や体調や気分が良ければ行けばいい安心感
  • 出発と帰宅の時間を自由に出来る柔軟さ
  • キャンセル代や予定に縛られない自由さ
  • 行列など無駄な時間が発生しにくい効率感
  • 当日現場で柔軟に予定を変更していける包容力
  • 当日したいことを見つけたら飛びつける可能性
  • 当日のスリルや冒険感の楽しみ

人によっても旅行によってもケースバイケースではあるとは思うが、検討の余地は十分にあるのでは無いだろうか?お金をかけて満足度を上げているということになるが、満足度が上がった分、行く回数を減らしても良い。1回のアジャイル旅行が、2回分の格安バスツアーよりも満足度が上回るのなら、1回でいいのでは無いだろうか。4万の岩手への日帰り旅行が、4万の苗場1泊2日の満足度を上回るなら、日帰りでもいいのでは無いだろうか。

事前予約の格安ツアーは、本質的には未来の自由度を犠牲にすることの対価として値引きを享受できるという取引である。格安バスツアーの安全性についても疑問視されつつある昨今、料金の安さだけを追求して様々な代償を払うよりも、多少料金が高くなってもそれ以上の満足度を得られるのであればむしろ得をしたという発想を持つのはいかがだろうか?

ソフトウェアの世界には富豪的解決という言葉がある。コストを節約するために大きな人的労力をかけるよりも、コストはあまり意識せずその分の労力が節約きれば良しとする発想だ。
お金は全てではない。数ある属性の1つでしかない。お金だけを意識してその他の多くの人と同じような行動をとるよりも、自由人たるエンジニアは富豪的発想を持ち少しだけ多くお金を払うことでそれ以上の満足を追求するような生き方をしてみよう。

■最後に

僕がアジャイル旅行を始めたのはスマートフォンを持ってからである。アジャイル旅行はスマートフォンを使うことで大きな力を発揮する。

普段からエンジニアとしても社長としても忙しい生活の中で、土日も仕事をする時間に使いたかったりするので、休暇に使える時間が限られているからこそたまの休暇には通常の数倍以上の満足度を得ておきたいというニーズから、満足度を高めるための様々な工夫を追求した結果アジャイル旅行のスタイルが確立された(そんなに大層なものでもないが笑)。

忙しかったとしても、企画や経営に関わるものとして休暇の中で得るレジャーの体験は重要であるし、たまに頭をリフレッシュするのも有効であり、仕事のレベルをよりアップしていくためにも適度な休暇は必須である。

これまでアジャイル旅行のスタイルで、北海道から沖縄まで日本中を旅してきており、また海外もアジア、中東、ヨーロッパ、北米などさまざまな場所をほぼノープランで現地入りしてから計画を立てるスタイルで旅してきた。

ノープランゆえに例えばパレスチナで知り合った現地人と死海に浮かぶ日帰り旅行にでかけたり、ローマの年越しで街中で一斉に上がる感動的な花火を丘から一望した後に、現地の若者によるシャンパンの乾杯ラッシュに巻き込まれたり、ニューヨークで泊まった家の夫婦と仲良くなって家族ディナーに参加したりと、事前に計画していたら決して立ち会えなかっただろう楽しい体験を得ることが出来た。

一人で旅行して寂しくないのかと思われるかもしれないが、社長をやっていると毎日のように知り合いや仲間が増えていき、皆でワイワイ活動する幸福は仕事を通して十分に体感しているので、休暇はなるべく1人の時間が欲しくなるものである。

旅行のスタイルは技術の進歩により多様化していくはずである。
僕と同じように仕事で忙しい人や自由人を志すエンジニアの皆さん、

アジャイル旅行、オススメです。