人はなぜインドに呼ばれそして愛するのか? #8

最近、なんだか呼ばれたような気がして、インドに行ってきた。
インドのほうも待ってくれていたようで、数々のエキサイティングな体験で迎えてくれ、
気のせいか少しだけバージョンアップして帰ってくることが出来たようだ。

不思議なことに、人はなぜかインドに惹かれ、インドへ行くことになっている。

有名な例では、かのビートルズもメンバー全員でインド修行をしている。スティーブ・ジョブズも若い頃に1年も滞在したことがある。そして後年、ザッカーバーグに「インドに行ったほうがいいよ」というアドバイスもしており、実際にザッカーバーグは1ヶ月間インドに滞在した。

「インドには行くべき時期がある。その時期はインドが決める。」

三島由紀夫はこのようなことを言ったらしい。
(ちなみに三島由紀夫は自決の3年前に初めてインドを訪れている。)

それにしても不思議だ。人はなぜインドに呼ばれるのだろうか?

インドの仏教

理由1:深そうだから

インドはとにかく奥が深そうな国だ。インダス文明から始まる悠久の歴史を持ち、人口は10億を超え、仏教やヨガを生み出し、独特な文明を形成している。そしてミステリアスでもある。最新のインドを詳しく理解するための情報は意外に少なく、近くのカレー屋さんに気のいいインド人がいることがあっても、本当のインドのことは何も理解できていない。なんだか分からないけど奥深そうな国だ、という印象となる。

理由2:楽しそうだから

インド映画をみれば一目瞭然。インドは楽しそうな国だ。インド映画は踊りのシーンで溢れており、必ずハッピーエンドで終わる。日本では考えられないが、映画館では観客も踊りだしたりする。実際にインドでとあるミュージカルを観覧していたら、何人かの観客が立ち上がって一緒に踊り出すシーンを目撃した。何事にも明るくオープンに生きているように見えるインド人、いかにも人生を楽しく生きるコツを知っていそうだ。

理由3:凄そうだから

世界に誇る歴史を持ち、あれだけの人口がいて、0を生み出したインド。学校では2桁の九九を教え、誰もが英語をしゃべり、映画製作本数はハリウッド以上。このところでは大学も発展してITの世界でもすごい勢いで成長し続けている。実際に世界的企業でも、グーグルしかりマイクロソフトしかり少し前のソフトバンクしかり、インド人の経営者が増えてきている。そして数学やITだけではなく、なんだか凄そうな仙人がいて、全てを見通していそうだ。

理由4:異世界だから

インドのイメージをいろいろと並べてみたがどれも漠然としていて、行ったことのない人には、結局のところ良くわからない遠い世界だ。そう、とにかくインドは異世界なのだ。それで言えば中東やアフリカなども確かに異世界だが、しかし少ない情報からなんとなく想像はできる。インドのことはとにかくよくわからない。でも分かっていることは、きっと異世界なんだろうということだ。何らかの扉を開いてくれそうな国、それがインドだ。

 
 
・・・と、このような理由からインドに興味を持っている人は実は多いのではないか。
それでは、人はどんなときにインドへ行きたくなるのだろうか?

異世界を見たくなる時、それはきっと日常から離れて、刺激を受け、自らを振り返り、これからについてじっくり考えたいときだろう。もしあなたが水槽にいる金魚だったとしたら、水槽の様子を知るには水槽の外から観察する必要がある。同様に、あなたが今の自分を知るためにも、はるばるインドから眺めてみる必要があるのだ。(ちなみに僕はそういう理由から年に3,4回は海外に行くことにしている)

さて、そんな期待を胸に実際にインドに行ってみると何が待っているか・・・。
行く前のイメージ以上に実際のインドは激しい国で、それがまた強烈な印象を与えてくれる。

インドの駅

・とにかくめちゃくちゃ

よく聞く話ではあるが、とにかくめちゃくちゃ、本当にめちゃくちゃである。電車や飛行機は本当に頻繁に遅れ、雑に運用されている。実際に今回のインドで、30分前までに搭乗ゲート付近にいないといけないというストイックなルールを知らず、飛行機に置いていかれる経験をしたし、なんとか手配したその数時間後の便は、逆になかなか離陸しないと思ったらエンジントラブルとのことで、隣の飛行機にみんな仲良く乗り移ることになった。タクシーの運転は荒々しく、道はいつも渋滞しており、寸断なくクラクションが飛び交う大渋滞の先頭で牛がのんびり歩いている。牛はそこら中に糞を撒き散らし、その横を人々は裸足で歩き、老婆は糞を素手で壁に貼りつけて干している。タクシーの運転手は「エアコン付ける?100円かかるけど」などと言ってきて、気を許せばいくらでも騙されそうである。インドの日々は頭にビックリマークが点滅しっぱなしで休まることがない。このあまりにも激烈な出迎えに、「奥深きインド」「優しくて暖かい人々」「すべてを見通す仙人」などの畏敬のイメージは豪快に吹き飛ばされる。

・そこまで凄くはない

そして冷静にインドを見てみれば、まあ別にそこまで凄くはない。経済発展は急速だが大都市のビジネス街と言っても高層ビル以上にゴミや渋滞や浮浪者が溢れてまだまだ新興国に分類される。インドから産まれた革新的な製品やビジネスや文化もそこまで多くない。映画も映画館も実際見てみると、それほどクオリティが高いという程ではない。そして2桁の九九が出来る人は見あたらないし、みんなが英語をしゃべるといっても中学レベルの英会話である。(ただ喋れる人は確かに多い。多言語国家のインドでは、最大話者のヒンドゥー語でさえ、3億人程度しかしゃべれない。ゆえにインド人同士の会話でも英語が重要なツールになってる)

・とことん自由

インド人はとにかく自由だ。あるがままに生きている。ベンチの隣に座って話しかけてきたおじさんは、こちらが日本人とわかるとなぜか嬉しくて歌い出した。その横で遊んでいる小さな姉妹はお菓子を野良猿に投げつけながら近くのゴミで焚き火をして遊び、一緒に遊ぼうと誘ってくる。お店の人は気分次第で料金を簡単に上げたり下げたりする。牛も猿も人も、インドではみんな自由だ。

・やっぱり楽しそう!

新興国も先進国もたくさん見てきたが、インドの一番の違いは、とにかく楽しそうな人が多いということだ。新興国の人が楽しそうなのはよくあることだが、インド人は群を抜いて楽しそうだ。きっと宗教的・民族的な特徴で、毎日を楽しく過ごすスタイルが染み付いているのだろう。ちょっと信じられないことだが、インド人は死ぬと灰にされ、全員ガンジス川に流される。どうせ死んだらみんな同じ川に流されるなら、人生という川もゆらゆら流されながら楽しもうぜ、という価値観が根付いているのかもしれない。

インドの駅で寝る人

 

おそらく初インドに遭遇した人の共通体験は、行く前はもっと精神的なもの、奥深いもの、斬新なものを想像し期待していったのに、実際に行くとそれどころじゃなく何も考える余裕もない程ただただメチャクチャで激しい体験をして帰ってきたというものだろう。たしかに行く前のイメージと実際の喧騒には大きなギャップがあるが、まあでも、とにかく異世界には間違いない。むしろその想像を超えたメチャクチャ具合がインドのインドたるゆえんで、その異世界ゆえに多くの気付きを与えてくれるのだ。

スティーブ・ジョブズはインドをこう評している。
「インドの田舎の人たちは、私たちのように知性を使おうとしません。彼らは、直感で動くのです。私は、直感は知性よりも強力だと思っています。そのことが、私の仕事に大きな影響を与えました」

もしかすると、先進国が科学的発展の中で数百年前に置き捨ててきた、動物的な本能、人間本来の暖かさ、幸せの本質を、インドはまだ根強く残しているだけのかもしれない。先進国も昔はインドだったのかもしれず、これからインドが先進国化するにあたって、インドはインドで無くなっていくのかもしれない。人懐っこくて本能に忠実でいつでも騒がしいインド人を見ていると、なんだか暖かいような、愉快なような、愛おしいような、ポジティブな気持ちになってくる。

世界中から人を呼び込み、メチャクチャに扱い、気付きを与えて帰す、マイペースで暑苦しい国インド。いつまでも愛される、人類の愉快な故郷であって欲しいものだ。

ということで、インドの旅、オススメです。