現代の侍、それはスーツアクターとSE #2

武士道とは死ぬことと見つけたり
〜「葉隠」より〜

日本には古来より武士道という思想があり、
大義のためには私情を廃し誠意を尽くすという真摯な価値観は、
日本人の美意識としてその中核を占め続けてきた。

それでは、伝統をおざなりに急速な発展を優先し続けてきたこの現代社会には、
今でもまだ武士道精神が現存していると言えるだろうか?

難しいところだが、今でもサムライジャパンなどと言ったりもするし、
るろうに剣心などを筆頭にサムライ映画の人気も高く、
何かしらサムライのニオイを感じとることは多い。

侍という「職業」はもちろん既に消滅しているが、
美意識としての「サムライ」は確かにまだ残っている気がする。

現代日本にて武士道精神を持つサムライ、
果たしてそれはいまどこに・・・?

と、前置きが長くなったが、ちょっと前に「インザヒーロー」という映画を見た。
「夢をかなえるゾウ」を世に出した有名ブロガーである水野敬也氏の脚本で、
前から注目している水野氏のブログで知ったのがきっかけだった。

この映画、一見してただの戦隊コメディ映画かと思いきや、
実際は実直なメッセージ性が込められたサムライの映画である。
(むしろエンタメよりもそっちに目的があるようにも思えるほど)

内容は戦隊ものヒーローのかぶりものをして、
ただひたすら危険なアクションをこなすというスーツアクターという職業のドラマで、
努力を続けても目立たず報われず、地味だけど真摯に生きている主人公が、
ハリウッド映画出演という大チャンス、しかし命がけの危険を伴うチャンスを前に、
日本スーツアクター界を背負って命がけで挑むというストーリーだ。

ここで、スーツアクターという生き方に武士道精神を重ねているのが面白い。
戦隊ものの被り物をしなければ表舞台に立つことが出来ないアクション俳優。
その自己犠牲の精神には、確かに武士道精神を感じることが出来る。
(ちなみに映画のパンフレットには武士道精神についての解説冊子がついていた)

この主人公の特徴は、

1. 日々鍛錬
2. 謙虚で誠実
3. 命をかける
4. 自己犠牲

といったものである。

またそれと対照させるかのように、現代的なキャラクターも登場する

1. 生意気な売れっ子若手俳優
2. 軽薄で拝金な実業家
3. エゴで厚顔なハリウッド監督

などなどである。

この映画以降、スーツアクターはもはやサムライにしか見えなくなり、
武士道精神の裏に日本人が忘れつつある大切なものを訴えかける傑作である。

 

・・・そして、もう一つここにサムライ的人種がある。それは、SEである。

システム開発プロジェクトはどれもこれも複雑難解で、
一説によれば失敗率は50%以上で、いわゆる「炎上」は日常茶飯事である。

SEはその炎上に最前線で向き合う職種である。
炎上の原因はすべてSEに押し付けられることが多い。

納期遅延、認識違い、品質問題、予算超過、サーバ負荷、法的問題、人的問題などなど、システムに関わる全ての問題の責任がSEに問われるケースが数多くある。

この背景には、ソフトウェアというものがまだ社会へ浸透する過程であり、
ソフトウェア開発プロセスに対する認識が不十分な現場が多いのではないかと推察される。

テレビに例えるとしたら、もし「笑っていいとも」で不快な思いをした場合、
クレーム電話をテレビを発売した「ソニー」に対して向けるような矛先違いが、
おそらく大昔は起きていたかもしれないが、今は誰もそんな間違えはしない。

しかしまだ歴史の浅いソフトウェア開発の現場では、多様な問題の責任が認識が不十分なままになんとなくSEに追求されることが多いのではないだろうか。
例えば納期遅延にしても、本当の原因をたどると仕様検討の甘さや予算見積の不備、デザイン決定の遅れなどSEではハンドリングできない部門に原因があることが多いが、納期遅延が発覚し炎上した時にボールを持っているのは往々にしてSEなのであり、罵声を浴びるのもSEなのである。

失敗したらSEの責任、成功するのが当たり前。
それ故にプロジェクトが成功してもSEの名声は得られず、
また黙々と次のプロジェクトの最前線へ配置されていく。

日本のSEとはそういう存在である。

SEとは何か、正確な定義は決まっていないと思う。SEを定義するのは難しい。
おそらく、SEとは職種のことでなく、「生き方」とも言えるものではないだろうか。
侍大将も家老も浪人もいずれもサムライである。家老や浪人は職種を指しており、サムライは生き方を指している。
同様に、SEは「システムに関わる難解な問題に最前線で向き合う生き方」を選んだエンジニアとも言えるかもしれない。

ちなみに、SEという職種は英語圏には存在せず、極めて日本的な存在である。
参考:「システムエンジニア」?なんじゃそりゃ|404 Blog Not Found

良きSEの特徴は、サムライやスーツアクターに通じるものがある。

1. 日々鍛錬
2. 謙虚で誠実
3. 命をかける
4. 自己犠牲

そう、カッコつけていえば、SEとは現代のサムライとして、武士道精神を継ぐものなのだ。
SEは確かに辛いシゴトではあるが、時代の最前線で求められている仕事として、世のSEはもっと誇りを感じてもいいとも思う。SEという職種の問題を指摘するだけなら簡単ではあるが、それでも世に必要とされているのであれば、やはり誰かがやらなければいけないのだ。

現代はIT革命の真っ最中、ライフスタイルは今でも矢継ぎ早に変革されていっている。
そんな激動の時代でSEが果たせる責任は大きい。
まだまだIT技術を熟知する人は少なく、正当な評価や支援は受けられない。

サムライという職種が暴力での統治から法による統治への変遷の過程で消滅していったように、
SEという職種も、新しい社会がソフトウェアに精通する過程で消滅する可能性すらある。

それでも、武士道精神を胸に、これを生涯の生き方にしようと決めた人達がいる。
それこそが現代のサムライエンジニア、そうSEではないだろうか。

思いのほか長く感傷的になってしまったが、
最後に武士道精神をよく表した一句を紹介して締めくくりたい。

 

かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ 大和魂
吉田松陰

 

現代風にアレンジすれば、下記のようになろう。

かくすれば かくなるものと知りながら やむにやまれぬ SE魂